日本各地の商店街は、いま多くが衰退の局面にあります。シャッターが下り、店主が高齢化し、若者が大型店やネット通販に流れていく。「シャッター商店街」という言葉が、現代の街の風景を表す言葉になりました。けれど、商店街は単なる買い物の場所ではありません。街そのもののかたちを編んできた装置として、何百年も機能してきたのです。
カナダの都市計画家ジェイン・ジェイコブズ(第81話と共通)が1961年の著書で示したように、街の活力は「街路の使われ方」から生まれます。様々な機能(住居・商業・職場・公共)が混在する街路では、朝・昼・夕・夜と異なる時間帯に異なる人々が行き交い、結果として「街路の目」(自然な見守り)が成立し、安全で活気のある街が生まれる。商店街は、この「混在する街路」の典型的な形でした。
もう一つ重要な視点が、デンマークの建築家ヤン・ゲール『人間のための街路(Cities for People)』(2010年)が示した「ヒューマンスケール」の概念です。徒歩で歩ける範囲、目線の高さで対話できる距離、適度な店舗の連なり――こうしたヒューマンスケールの街路が、人々を「住人」にし、自動車中心の郊外型街路が「通過者」にする。商店街は、ヒューマンスケールを保持する数少ない都市装置でした。
商店街の社会的機能は、商業を超えています。地域の祭礼の場、子どもの登下校の見守り、高齢者の散歩と日常的交流、地域情報の流通点、新参者の歓迎――こうした機能のすべてが、商店街という空間構造の中で複合的に行われていました。商店街がなくなることは、買い物の場が消えるだけでなく、地域の社会関係を編む基盤的装置が失われることを意味します。
近年、商店街の衰退に対する応答として、新しい街路の試みが各地で生まれています。富山市のコンパクトシティ政策、長野県小布施町の街並み再生、東京の谷中銀座・武蔵小山・三軒茶屋など、独自の魅力で再活性化する商店街。徒歩中心、地元の店、世代を超えた人々が交わる場――こうした要素を意識的に設計した街路が、現代の暮らしのなかで再評価されつつあります。
日々の暮らしのなかで、近所の商店街を歩く時間を持つこと、地元の小さな店で買い物をすること、祭礼や地域イベントに参加すること――こうした行動が、街そのもののかたちを支えています。商店街は便利さや効率では大型店に勝てないけれど、別の価値を提供している――その価値を意識化することで、街との関わり方が変わっていきます。
DEEPER 学術的な観点で深めると ▾
街路論と商店街研究の現代的展開は、米国の都市計画家ジェイン・ジェイコブズ(1961年)が出発点です。デンマークの建築家ヤン・ゲール(1971年)、(2010年)が街路の人間中心設計論を体系化。米都市計画家ウィリアム・H・ホワイト(1980年)は実証的観察研究で都市空間と人間行動の関係を解明しました。日本では都市計画学の西村幸夫(東京大学名誉教授)、商店街研究の新雅史(流通経済大学)、街路論の佐々木雅幸(同志社大学)らが、日本の商店街の歴史と現代を継続的に研究してきました。富山市のコンパクトシティ政策(森雅志元市長)、長崎の景観論(田原泰浩)、岐阜のメディアコスモス(伊東豊雄)など、現代日本の街づくりの実践研究も豊富です。米ピッツバーグ大学のサスキア・サッセンの「グローバル・シティ」論も商業空間と都市構造の関係を扱っています。商店街は、商業の場から、都市計画・社会学・文化研究の中心的研究対象へと位置づけ直されています。
日本の商店街数は1990年の約1.6万から2024年に約1.2万に減少(中小企業庁「商店街実態調査2024」)。
商店街の「衰退している」と回答した割合は約65%(中小企業庁「商店街実態調査2021」)。継承の構造的危機。
富山市のコンパクトシティ政策で中心市街地の人口が増加に転じ、自動車利用率が低下(富山市「コンパクトシティ政策評価2023」)。
KEY REFERENCE この回の典拠 ▾
- Jacobs, J. (1961). The Death and Life of Great American Cities. Random House.都市計画批判の古典(第81話と共通)。
- Gehl, J. (2010). Cities for People. Island Press.人間中心の街路設計論。
- Whyte, W. H. (1980). The Social Life of Small Urban Spaces. Project for Public Spaces.都市空間の社会学的観察。
- 新雅史(2012)『商店街はなぜ滅びるのか』光文社新書日本の商店街論。
- 西村幸夫(2018)『都市保全計画』東京大学出版会日本の都市計画。
商店街が街を編んでいたなら、PART V最終話は、近代が作り出したもう一つの公共装置「公共図書館」の歴史と未来です。次回は、知の共有の場としての公共図書館を、公共圏論から辿ります。
