「夫婦は7年ごとに変わる」「7年目の浮気(seven-year itch)」――こうした言い回しを、私たちは聞いたことがあります。映画のタイトルにも、人生相談の話にもよく登場します。これは単なる迷信なのか、それとも長い経験から抽出された関係の節目なのでしょうか。関係発達学の系譜から、長期関係のリズムを考えてみます。
関係発達学(relationship development)の研究は、関係を「静的なもの」ではなく「時間とともに変化する動的なシステム」として捉えます。米コロラド大学のテッド・ヒューストンらは「PAIR Project」と呼ばれる、新婚夫婦168組を14年間追跡した縦断研究で、関係満足度がU字曲線を描くことを示しました。新婚直後の高い満足度が徐々に下がり、特に2-7年目に大きく低下し、その後安定する。「7年目の浮気」は俗説ではなく、関係満足度の自然な低下時期を反映していたのです。
なぜ満足度が下がるのか。一つは「ハネムーン期」のドーパミン優位の関係から、より落ち着いた愛着型の関係への移行です。第42話で取り上げた愛着理論と関連します。脳の状態が変わるため、初期の興奮が薄れる。これは関係の劣化ではなく、生物学的な自然の経過です。もう一つは、子育てや家事分担といった現実的なストレスが関係に重なってくる時期と重なるためです。
関心深いのは、満足度の低下後の経路が二つに分かれることです。一つは離婚や関係の冷却。もう一つは、関係の質を意識的に再構築し、新しい段階に入っていく経路。米ノースウェスタン大学のイーライ・フィンケルは『The All-or-Nothing Marriage』(2017年)で、現代の結婚が伝統的な「役割分担」型から「自己実現の伴走者」型へと変化していることを示し、関係の節目で「再契約」が必要だと論じています。
7年だけが節目ではありません。関係発達学の研究では、出産前後、子どもの就学、思春期、子どもの独立、退職、定年後――これらすべてが関係の質に影響する大きな節目です。各節目で、関係の役割と意味が再定義される必要があり、それを丁寧に行えるカップルが長期的な質を維持します。「ずっと同じ関係」が続くわけではなく、「同じ相手と何度も新しい関係を築き直していく」のが、長期パートナーシップの実態です。
節目を「危機」と捉えるか「再契約の機会」と捉えるかで、関係の経路は変わります。「最近、相手と距離を感じる」と思ったとき、それは関係の終わりのサインではなく、次の段階に入る前触れかもしれません。お互いの今の状態、これからの希望、何を大切にしたいかを、改めて話し合う時間を作ること――節目を意識的に通過する作法が、長く深い関係を支えます。
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関係発達学の縦断研究は、米コロラド大学のテッド・ヒューストン(1939-2014)が主導した「PAIR Project」(1981年開始、新婚夫婦168組を14年追跡)が代表的です。彼らの研究は、関係満足度の長期的経路と、初期の関係特徴がどう将来を予測するかを示しました。米ノースウェスタン大学のイーライ・フィンケルは(2017年)で、米国の結婚の歴史的変容を制度論的に分析。米ヴァージニア大学のロバート・エモンズは関係における感謝の役割を、米カリフォルニア大学バークレー校のロビン・サイモンズは長期関係のセルフ・ペース研究を進めています。発達心理学の枠組みでは、エリク・エリクソンの心理社会的発達段階(『幼児期と社会』1950年)が個人の発達と関係の節目を結びつける視点を提供しました。日本では家族社会学の山田昌弘(中央大学)、関係発達研究の岡本祐子(広島大学)らが、日本のライフコースと関係の節目を研究しています。「7年目の浮気」は、Marilyn Monroe主演の1955年の同名映画から世界に広まった概念ですが、関係発達学の縦断研究によって、その背後にある実証的なリズムが解像されつつあります。
PAIR Projectの14年追跡で関係満足度はU字曲線、特に2-7年目に大きく低下(Huston, T. L. et al. 2001, J Pers Soc Psychol, 80(2): 237-252)。
日本の離婚件数のピークは結婚後5-9年(厚生労働省「人口動態統計2023」)。「7年目の浮気」と整合する統計的傾向。
関係満足度のU字底(5-7年目)から上昇に転じるカップルは全体の約60%、再構築できれば長期的に質が向上(Karney, B. R. & Bradbury, T. N. 1995, Psychol Bull)。
KEY REFERENCE この回の典拠 ▾
- Huston, T. L. et al. (2001). "The connubial crucible." J Pers Soc Psychol, 80(2): 237-252.PAIR Project縦断研究。
- Finkel, E. J. (2017). The All-or-Nothing Marriage. Dutton.結婚の歴史的変容。
- Karney, B. R. & Bradbury, T. N. (1995). "The longitudinal course of marital quality and stability." Psychol Bull, 118(1): 3-34.関係満足度の縦断研究のメタ分析。
- Erikson, E. H. (1950). Childhood and Society. W. W. Norton.心理社会的発達段階。
- 山田昌弘(2014)『「家族」難民』朝日新書日本の家族・関係の社会学。
夫婦・パートナーとの関係に節目があるなら、私たちと一緒に暮らすペットとの関係も、独自のかたちを持っているはずです。次回は、ペットと暮らす人の脳が変わるという、動物介在療法の研究を辿ります。
