朝6時に起きるとなぜか頭が一日中重い、夜中の12時を過ぎてからアイデアが冴える、土日に思い切り寝ても朝はやはり苦手――こうした体質を持つ人を、社会はしばしば「だらしない」「自己管理ができない」と扱ってきました。逆に、朝5時から元気に活動できる人は「規則正しい」「努力家」と評価されがちです。けれど、ここ20年の遺伝学は、朝型と夜型の違いがかなりの程度、遺伝子レベルで決まっていることを明らかにしてきています。
私たちの体には約24時間周期で動く体内時計が備わっており、その動かし方を制御する「時計遺伝子」が複数発見されています。米国のジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、マイケル・ヤングは、ショウジョウバエの時計遺伝子(PER遺伝子など)の発見と機能解明によって、2017年にノーベル医学・生理学賞を受賞しました。私たち人間の体内時計の精密な構造も、彼らの基礎研究から解像されてきたのです。
人によって、この時計の周期は微妙に異なります。「短い」周期の人は朝型、「長い」周期の人は夜型になりやすい。ドイツのミュンヘン大学のティル・レネベルクらは、欧州で数十万人規模のクロノタイプ調査を実施し、人口分布が朝型から夜型までゆるやかな正規分布を描くことを示しました。極端な朝型は10%程度、極端な夜型も10%程度、その中間にほとんどの人がいる。これは性格や努力ではなく、生まれつきの体質の違いです。
問題は、現代社会が極端に「朝型仕様」に作られていることです。学校の始業は朝8時、会社の始業は朝9時。これは平均的な朝型〜中間型には合っていますが、夜型の人にとっては慢性的な「社会的ジェットラグ」を生んでいます。日本の睡眠研究を主導する三島和夫(国立精神・神経医療研究センター)らは、社会的ジェットラグが続くと、肥満・糖尿病・うつ病・心血管疾患のリスクが有意に上がることを繰り返し示しています。「朝型に合わせる」という社会の前提が、人口の少なくない部分の健康を損なっているのです。
近年、欧米の一部の高校・企業が始業時刻を遅らせる実験を始めています。米国小児科学会は2014年、高校の始業を朝8時30分以降に遅らせることを正式に勧告しました。実施した学区では、生徒の出席率・成績・気分の改善が報告されています。日本でもフレックスタイムや時差出勤が広がっていますが、まだ「朝型仕様」の社会基盤は強いままです。
自分が朝型なのか夜型なのか、無理に矯正するのではなく、自分のリズムを理解して暮らしを設計し直す――それが、いちばん健康的なアプローチです。重要な仕事は自分のピーク時間に合わせる、家族の生活パターンを互いに尊重する、職場で自分のクロノタイプを表明する。「朝型至上主義」から自由になることは、自分の体質との誠実な対話の始まりでもあるのです。
DEEPER 学術的な観点で深めると ▾
時計遺伝子の発見は、米ブランダイス大学のジェフリー・ホール、マイケル・ロスバッシュ、米ロックフェラー大学のマイケル・ヤングの三氏が、ショウジョウバエのperiod遺伝子の機能解明によって2017年にノーベル医学・生理学賞を受賞したことで一般にも知られるようになりました。ヒトのクロノタイプ研究を主導してきたのが、ドイツのミュンヘン大学のティル・レネベルクらです。彼らは「ミュンヘン・クロノタイプ質問紙(MCTQ)」を開発し、欧州で数十万人規模のクロノタイプ調査を実施。「社会的ジェットラグ」という概念を提唱し、社会の時刻と個人の体内時計のずれが健康に与える影響を実証してきました。日本では国立精神・神経医療研究センターの三島和夫、京都大学の山仲勇二郎、近畿大学の重久俊之らが、日本人のクロノタイプと健康・パフォーマンスの関係を継続的に追跡しています。米ロード・アイランド大学のメアリー・カースカドンは10代のクロノタイプ研究の第一人者で、思春期の睡眠相後退と学校始業時刻の問題を長年提起してきました。クロノタイプは、個性の問題から、医学・公衆衛生・教育政策の中心的考慮事項へと位置づけ直されつつあります。
クロノタイプは遺伝率約50%と推定される(Hu, Y. et al. 2016, Nature Communications, 7: 10448、ゲノム関連解析)。
社会的ジェットラグ1時間あたり、肥満リスク約33%上昇(Roenneberg, T. et al. 2012, Current Biology, 22(10): 939-943)。
米国小児科学会は高校始業を朝8時30分以降に遅らせることを勧告(AAP 2014)。実施学区で出席率・成績が改善。
KEY REFERENCE この回の典拠 ▾
- Roenneberg, T. (2012). Internal Time. Harvard University Press.クロノタイプ研究の総合書。
- Hu, Y. et al. (2016). "GWAS of 89,283 individuals identifies genetic variants associated with self-reporting of being a morning person." Nature Communications, 7: 10448.クロノタイプの遺伝的基盤。
- Hall, J. C., Rosbash, M., & Young, M. W. (2017 Nobel Lecture).時計遺伝子の発見。
- 三島和夫(2014)『朝型勤務がダメな理由』日本経済新聞出版日本の社会的ジェットラグ研究。
- Carskadon, M. A. (2011). "Sleep in adolescents." Pediatric Clinics of North America, 58(3): 637-647.思春期のクロノタイプ。
体内時計が人それぞれ異なるなら、教育もまた、画一的な「教える」モデルから自由になる必要があるはずです。次回は、子どもが自分から学ぶ「教えない教育」の系譜を辿ります。
