中間支援組織が無償で行ってきたことを、巨大な経済的価値として再構築するビジネスモデルが、20世紀末から急速に立ち上がりました。「プラットフォーム経営」と呼ばれる手法です。Apple、Microsoft、Google、Amazon、Meta、Alibaba、Tencent、楽天、メルカリ、リクルート――現代の最も価値ある企業の多くが、この経営モデルで動いています。
プラットフォーム経営の特異な点は、自分が直接製品やサービスを売るのではないことです。代わりに、複数の異なるグループ――例えば「クレジットカードの保有者」と「カード加盟店」、「Uberの運転手」と「乗客」、「メルカリの出品者」と「購入者」、「YouTubeの動画クリエイター」と「視聴者」――が出会い、取引する場を提供する。この場の運営から手数料を得る。
シンプルに見えて、経済学的には極めて複雑な構造です。1990年代後半、フランスの経済学者ジャン=シャルル・ロシェとジャン・ティロールが、この構造を「二面市場(two-sided market)」として理論化しました。2003年の論文『プラットフォーム競争の二面市場』が古典的な定式化です。彼らの発見の核は、プラットフォーム上の二つのグループ間に「ネットワーク効果」が働くことでした。クレジットカード保有者が増えれば加盟店も増えたいと思い、加盟店が増えれば保有者も増えたいと思う。この二方向の好循環が、プラットフォームの圧倒的な競争優位を生みます。
経営学側では、2002年にアナベル・ガワーとマイケル・クスマノが『プラットフォーム・リーダーシップ』を出版し、IntelやMicrosoft、Ciscoの戦略を体系的に分析しました。続いて2016年、ジェフリー・パーカー、マーシャル・ヴァン・アルスタイン、サンギット・チョーダリーが『プラットフォーム・レボリューション』で、プラットフォーム経営の実装方法を整理します。彼らの最大の貢献は、プラットフォーム企業は、伝統的なリニア企業とは違うルールで動く、ということを明確にしたことでした。
プラットフォーム経営の核心は3つあります。第一に、価値を生産しないが流通させる。Uberは車を持たず、Airbnbは部屋を持たず、Facebookはコンテンツを作りません。第二に、両側を不均等に補助する(cross-subsidization)。Adobe Acrobat Readerはユーザーには無料、企業には有料。プレイステーションのコンソールは原価割れ、ソフトの手数料で利益を得る。第三に、ガバナンスがすべて。ルール設計、紛争解決、信頼の仕組みが、プラットフォームの長期競争力を決めます。
賀川豊彦が1929年に夢見た「友愛の経済学」、ロッチデール協同組合が1844年に始めた共同購入の仕組み、IIHOEが1996年に確立したNPO中間支援。これらすべてが、現代のプラットフォーム経営と地続きです。媒介者の経済的価値を、20世紀の社会運動が見出したことを、21世紀の市場経済が大規模に再発見しているのです。
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プラットフォーム経営の実装には、リニア経営とは異なる3つの判断軸が必要です。
第一に、ネットワーク効果の起動。プラットフォームのスタートアップ期の最大の壁は「鶏と卵問題」――出品者がいないから購入者が来ない、購入者がいないから出品者が来ない。これを突破するには、一方を意図的に補助して先行させる戦略が必要です。Uberは初期に運転手に保証収入を与え、メルカリは出品者に手数料を一時的にゼロにし、Etsyはクラフト系コミュニティを丹念に育てました。初期の片側補助は、ROIではなくシステム稼働の前提投資です。
第二に、エコシステム・ガバナンス。プラットフォーム上の参加者が増えるほど、紛争・偽物・偽ユーザー・コンテンツモデレーションの問題が指数的に増えます。Appleの「App Store審査」、AmazonのSeller Central審査、メルカリのカスタマーサポート、Airbnbの宿泊評価制度――これらはプラットフォーム企業の最大のコスト中心であり、同時に最大の差別化要因です。ガバナンスを軽視したプラットフォームは、長期的に必ず崩壊します(2010年代の中国の山寨プラットフォーム群、コロナ初期の偽情報問題など)。
第三に、データ主権の倫理。プラットフォーム企業は、参加者の取引データ・行動データ・人間関係データを蓄積します。これは強い競争優位の源泉ですが、同時に最大の倫理的リスクでもあります。EU GDPRや中国の個人情報保護法、日本の改正個人情報保護法などの規制環境が厳しくなるほど、データ倫理に投資できる企業のほうが長期競争力を持ちます。
プラットフォーム経営は、効率の最適化ではなく、信頼の最適化です。
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2. 異分野からの発展的視点 ― バラバシが解いた「金持ちはなぜ更に金持ちになるのか」
プラットフォームでなぜ少数の勝者が市場を独占するのか。同じ問いが、引用ネットワーク、Webリンク、空港網、タンパク質相互作用でも同型の現象として観測されることに気づいた物理学者がいました。1999年、米ノートルダム大学のアルバート=ラズロ・バラバシ(Albert-László Barabási)とレカ・アルバートは、World Wide Webの数十万ページのリンク構造を実測し、衝撃的な事実を示しました(*Science* 286巻, 509-512頁)。
それまでネットワーク科学は、ノードの繋がりが平均値を中心としたベル型分布になると考えていました。けれども実測されたのは、少数のページが膨大なリンクを集め、大多数のページがほとんどリンクを持たないべき乗則分布でした。彼らはこれを「スケールフリー・ネットワーク」と名づけ、その背後にある単純な動学を提示します ―― 新しく加わるノードは、既にリンクが多いノードを優先的に選んで繋がる。この「優先的選択(preferential attachment)」だけで、べき乗則分布が必然的に立ち上がる。豊かな者がさらに豊かになる「マシュー効果」を、ネットワーク動学として数理化したのです。
Amazon、Google、Apple App Store、Salesforce、AWS、Uber ―― プラットフォーム企業の市場集中度がジニ係数0.9を超えるのは、デジタル経済の特殊性ではなく、自然界のあらゆるスケールフリー・ネットワークが必然的に辿る数理でした。両側市場の数理は、自然界の普遍構造の社会的実装でもあったのです。
次回は「中間支援のかたち ― 第5章のまとめ」をお届けします。
