PART III 関係 ・ 恋愛 #04
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友情と恋愛のあいだに、本当に線はあるのか

― 関係分類学が示す、関係の連続性

Is There Really a Line Between Friendship and Love?

「これは友情?それとも恋愛?」――こうした問いを抱えた経験は、誰にでもあります。私たちはたいてい、関係を「友情」「恋愛」「家族」と明確に分類できると思っています。けれど、関係分類学の研究は、関係のあいだにある境界が、思っているよりずっと曖昧であることを示しています。

西村 勇也(NPO法人ミラツク 代表理事) 2026年5月8日 推定読了 約8分 学術領域: 社会科学 / 関係分類学・社会心理学

「あの人とは、友達なのか、それとも特別な関係なのか」――こうした問いを抱えた経験は、誰にでもあります。私たちはたいてい、人間関係を「友情」「恋愛」「家族」「同僚」など、明確に分類できると思っています。社会的にも、関係には型があり、それぞれに期待される振る舞いがある。けれど、現実の関係は、こうしたカテゴリーにきれいに収まることのほうが少ないのかもしれません。

関係分類学(taxonomy of relationships)の研究は、人間関係の多様性を実証的に調査してきました。米ペンシルベニア州立大学のキース・サンダーソンらは、若年成人を対象とした調査で、自分の重要な関係を「友情」「恋愛」「家族」のどれかに当てはめにくい関係が、20代女性で約30%、20代男性で約25%にのぼることを示しました。「親友以上、恋人未満」「ロマンチックではないが特別な関係」「家族のような友人」――こうした関係が、実は珍しくないのです。

心理学では、関係の質を「親密さ」「コミットメント」「情熱」の3軸で捉える視点があります(米イェール大学のロバート・スターンバーグの「愛の三角理論」)。友情は親密さとコミットメントが高く情熱が低い、ロマンチック愛は親密さと情熱が高くコミットメントが中程度、結婚愛は3つすべてが高い――こうした連続体として関係を捉えると、「友情」と「恋愛」のあいだは断絶ではなく、連続的な変化として見えてきます。

近年の社会では、「Queerplatonic relationship」「Romantic friendship」「Aromantic」など、伝統的なカテゴリーに収まらない関係を表現する言葉が増えています。米ウィスコンシン大学のエレイン・ハットフィールドや、米コロンビア大学のリサ・ダイアモンドらは、性的指向や恋愛感情が時間とともに流動的に変わりうることを実証研究で示してきました(Diamond, L. M. 2008, Sexual Fluidity)。固定的なカテゴリーで関係を縛ることは、関係の実態を見えにくくしているのかもしれません。

日本では、社会学者の山田昌弘が「友達夫婦」「ルームメイト的夫婦」など、結婚の中の関係の多様化を指摘してきました。同性のパートナーシップ、同居しないパートナーシップ、長期的な単独生活と深い友情の組み合わせ――関係のあり方は、近代家族モデルが想定する以上に多様化しています。

日々の暮らしのなかで、この知見は関係への向き合い方を変えます。「これは友情なのか恋愛なのか」と分類することに執着するより、「この関係が、自分にとって何を支え、何を要請しているか」を丁寧に考えるほうが、関係そのものを大切にできます。カテゴリーの押しつけではなく、その関係独自のかたちを尊重すること――それが、現代の関係の最も誠実な作法なのかもしれません。

DEEPER 学術的な観点で深めると

関係分類学の研究は、米イェール大学のロバート・スターンバーグの「愛の三角理論」(1986年)が体系化の出発点です。彼は「親密さ・情熱・コミットメント」の3次元で関係を分類し、8つの関係タイプを提示しました。米ハーバード大学のエレイン・ハットフィールドらは「情熱的愛」と「コンパニオン的愛」の区別を1980年代から研究。米ユタ大学のリサ・ダイアモンドの(2008年)は、性的指向の生涯にわたる流動性を縦断研究で実証しました。米カナダ・トロント大学のジーン・テッワル、米ニューヨーク大学のジャスティン・レミラーらは、ポリアモリー・queerplatonic関係などの非伝統的関係を学術的に研究しています。日本では家族社会学の山田昌弘(中央大学)が現代日本の関係多様化を、ジェンダー研究の藤田結子(東京大学)らがカップル関係の多様化を継続的に研究しています。SNS時代の関係研究では、米メリーランド大学のジェフリー・ホールが「Hyperpersonal CMC」モデルでデジタル媒介関係の特徴を分析。関係は固定カテゴリーから多次元の連続体として捉え直されつつあります。

SIGNAL 01

20代の約25-30%が、自分の重要な関係を伝統的カテゴリーに分類しにくいと回答(米ペンシルベニア州立大学若年成人調査ほか複数の調査)。

SIGNAL 02

性的指向の約26%の人が成人後に「揺らぎ」を経験(Diamond, L. M. 2008の縦断研究、10年追跡)。

SIGNAL 03

日本の「事実婚」「同居せずパートナーシップ」など多様な関係形態が増加(国立社会保障・人口問題研究所「家族・地域における支え合いの状況2022」)。

KEY REFERENCE この回の典拠
  • Sternberg, R. J. (1986). "A Triangular Theory of Love." Psychological Review, 93(2): 119-135.愛の三角理論。
  • Diamond, L. M. (2008). Sexual Fluidity. Harvard University Press.性的流動性の縦断研究。
  • Hatfield, E. & Rapson, R. L. (1993). Love, Sex, and Intimacy. HarperCollins.関係心理学の総合書。
  • Reis, H. T. & Sprecher, S. (eds.) (2009). Encyclopedia of Human Relationships. Sage.関係科学の事典。
  • 山田昌弘(2014)『「家族」難民』朝日新書日本の関係多様化研究。
QUESTION FOR NEXT — 次号への問い

関係に固定的な型がないなら、関係の終わり――「別れ」――もまた、文化や歴史によって違うかたちを持っているはずです。次回は、別れの作法の文化的系譜を、人類学から辿ります。

NEXT EPISODE 第53話「別れの作法には、文化的な系譜がある」 公開を待つ →
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